水を撒いてくれ!

とりとめない思考の垂れ流し、または備忘録

底の薄い愛しいやつ

 あれは中学三年生の頃。ぼくの履いていたスニーカーが下駄箱からなくなっていたことがあった。そのスニーカーは母方の伯父が買ってくれた大切なものだったが、お世辞にも周りから好かれているとは言えなかったぼくにとって、それは悲しいことだけど「まああるよな」という事象だった。

 下校時間、校舎用のスリッパを脱ぎ自分の靴を履いて帰っていく同級生たちを横目に、ぼくは自分のスニーカーを探した。下駄箱の上や傘立てやゴミ箱の中。
 どこを探しても見つからなくて途方に暮れていたとき、二年生まではそれなりに仲良くしていたやつらがニヤニヤしながら現れて、わざとらしく「どうした?」と聞いてきた。
 ぼくは苛立ちを隠しながら「靴がないんだ」と彼らに話す。
「マジで? じゃあ一緒に探してやるよ」
 言葉だけを切り取ればいい奴のようだけど、彼らのニヤついた顔にあったのは見間違いようのないほどの悪意。
 ぼくは更にイラつきながらも彼らがやったという証拠もないため、ぐっと堪えて「ああ頼む」と答えてスニーカーを探し続けた。
 手伝うと言ったわりに彼らは下駄箱の周りをうろうろするだけで、ボス格のやつに至っては下駄箱と廊下の間の階段に座ってずっとニヤニヤしていた。

 半ば諦めたような気分でいると、彼らのうちの一人が「あれぇ」と大きな声をあげた。ぼくは、まさか本当に見つけたのかと少し期待を込めてそちらを見ると、そいつはにやにやと自分の鞄の中を覗いていた。ぼくを見ながら何度かそれを繰り返す。
「あれ? 俺の鞄に入ってるような気がしたんだけどな」
 完全に煽ってきている。
 ぼくはその煽りに乗ってしまった。

 気がついたらそいつの襟首を掴んで頭突きをしていた。

 そこから揉み合いになってしばらくグダグダとケンカをしていたけど、周りからのもっとやれという煽りや、ぼく自身が置かれている立場(当時ぼくは、いろいろあって身内でもなんでもない下宿屋さんでお世話になっていた。エスカレートするとその家の人にも迷惑がかかる)を考えると一気に頭にのぼっていた血が下がって、ぼくは冷静になった。そして、彼らに娯楽を提供してしまっている事実が嫌になった。
 ケンカはぼくが優位に進めていて先に手を出したのもぼくだったから、鼻血を流しながら必死にぼくの襟を掴む彼を周りの人間から引き離し「一発思いっきり殴っていいからそれで終わりにしよう」と言った。
 彼ははじめ「は?! 意味わかんねえ! はぁ?!」みたいな感じだったけど、そしてなぜかしきりに「みんなでボコしてやる!!」と集団の話にすり替えようとしていたけれど、ぼくは彼にもわかるようにぼく自身のそのときの立場を話して一発殴って終わりにしてもらった。

 今真剣に思い出そうとしてみたけど、結局、そのスニーカーが見つかったのか、それとも見つからずにスリッパで帰ったのか思い出すことができない。
 

 このときのスニーカーがコンバースのキャンバススニーカー、オールスターだ。説明なんていらないくらい定番中の定番のローテクスニーカー。
 あれ以来ずっとぼくの靴箱、玄関にはオールスターがある。基本的に白がキャンバス地が多いけど、ハイカットもローカットも素材が違うものもいろいろと履いた。

 路上で歌うとき、バイトに行くとき、デートするとき、いつだって履いてきた。
 バンズやニューバランスやナイキやアディダスも好きだけど、そして年齢とともにブーツや革靴を履く機会も増えたけど、ぼくはこれからも常にコンバースのオールスターを履くだろう。
 オールスターは「お気に入り」という枠を超えて、ぼくの人生の大半を共にしてきた大切なアイテムだ。

 

スニーカーに関するエピソード少ないな(笑)

 

今週のお題「お気に入りのスニーカー」